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大阪地方裁判所 平成元年(わ)673号 判決

本店所在地

大阪府豊中市寺内二丁目三番一五号

オスカー物産株式会社

(右代表者取締役 片岡一雄)

本籍

大阪府吹田市江坂町二丁目二〇番

住居

大阪市都島区友渕町一丁目五番五-三二〇八号

会社役員

片岡一雄

昭和二〇年五月二六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤村輝子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人オスカー物産株式会社を罰金三五〇〇万円に、被告人片岡一雄を懲役一年六月に処する。

被告人片岡一雄に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人オスカー物産株式会社(以下、被告会社という。)は、大阪府豊中市寺内二丁目三番四号(当時)に本店を置き、遊技機の製造、販売等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人片岡一雄(以下、被告人という。)は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の経理、決算、税務申告等に関する事項につき嘱託していた公認会計士松岡正一と共謀の上、被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと企て、架空の販売手数料及び右松岡に対する架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、被告会社の昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が三億二八〇六万七五四〇円あつた(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書提出期限の最終日である同年六月一日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六四九万八五九五円でこれに対する法人税額が六八一万六三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億三七三九万五七〇〇円と右申告税額との差額一億三〇五七万九四〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告会社代表者兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書五通

一  松岡正一(九通、ただし、昭和六三年一一月一六日付、同年一二月一四日付、同月二二日付につき各謄本)、山口幸夫(二通)及び中島昌司の検察官に対する各供述調書

一  松岡正一(一二通)、山口幸夫(六通)、中島昌司、中山直也及び左近戸憲治に対する収税官吏の各質問てん末書

一  左近戸憲治及び山口幸夫各作成の確認書

一  収税官吏作成の査察官調査書(一一通)、脱税額計算書及び写真撮影てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  検察官作成の電話聴取書

一  豊能税務署長作成の証明書三通

一  閉鎖登記簿謄本(八通)及び登記簿謄本

一  押収してある総勘定元帳一綴(平成元年押第三四〇号の1)、ゴム印四個(同押号の2の1ないし4)、印鑑四個(同押号の3の1ないし4)、未使用領収証七冊(同押号の4の1ないし7)、ゴム印二個(同押号の5の1、2)、印鑑二個(同押号の5の3、4)、長期貸付金一覧表等ファイル一綴(同押号の6)及び銀行残高メモ等一束(同押号の7)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示の罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金三五〇〇万円に処することとする。

(弁護人らの主張に対する判断)

一  弁護人らは、本件に係る確定申告書添付の損益計算書に計上した雑収入(別紙(一)修正損益計算書勘定科目雑収入参照)中には、被告会社が昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度(以下、当期という。)において中谷善秋から返還を受けた七〇〇〇万円が含まれているが、右は、被告会社がこれより先の昭和五九年にいわゆる脱税報酬として同人に支払つていた同額の金銭につき、右脱税の発覚後、同人から返還を受けたものであり、しかも、昭和五九年及び同六〇年各四月期の所得金額の計算上、損金算入が認められず、全額所得金額に加算されて既に課税の対象とされていたのを、たまたま被告会社において誤つて雑収入に計上したにすぎないものであるから、本件ほ脱額の計算に際し、これを重ねて当期の収益に加算することはできない旨主張し、被告人も当公判廷において同旨の弁解をする。

なるほど、前掲証拠によれば、弁護人らが主張するとおりの経緯により被告会社が右七〇〇〇万円を中谷から受領したことが認められるが、右金員は、弁護人らの主張によつても、脱税報酬として中谷に対する支払をいつたん完了した後、脱税の発覚後において、同人と被告会社との間で別途新たな返還の合意がなされ、その合意に従い、被告会社が返還を受けたものであつて、税法上は別個の新たな取引に基づく雑収入とみるほかなく、これを当期において所得に加算すべきは当然であるから、弁護人らの主張は理由がない。

二  弁護人らは、さらに、松岡正一に対する架空支払手数料八五四一万円余り(別紙(一)修正損益計算書勘定科目支払手数料参照)のうち、被告会社の実質上の交際費を支払手数料の名目で同人に送金し、同人がその金員を被告会社に代わつて飲食代金等の支払先に送金して支払うとの方法により交際費に対する課税を免れた金額一七三四万六八四九円について、被告人は、税務会計の専門家たる松岡から、以前にも顧問会社において右と同様の方法をとつたことがあり、税法上問題がないとの指導を受け、これを信じて従つたものであるから、被告人にはほ脱の犯意がなかつた旨主張し、被告人も同旨の弁解をする。

しかしながら、前掲証拠によれば、松岡が被告人にかかる方法を提案したのは、被告人が松岡に対し、当期の所得操作の意向を伝え、さらに、多額の架空販売手数料を計上するとの本件における中心的ともいうべき所得操作を依頼した後のことであつて、同人は、被告人のかかるほ脱の犯意を前提とし、これを実現するための一環として、交際費に対する課税をも免れたいとの被告人の要望に沿うよう右方法を提案したものと認められるところ、被告人は、もとより、前記支払手数料が仮装のもので、その実質が被告会社の交際費であることを十分に認識し、かつ、仮装のための具体的方法についての認識にも欠けるところがなかつたのであるから、被告人に前記金額分についてのほ脱の犯意があつたことは明らかである(なおまた、松岡は、右のとおり税務会計の専門家としての知識、経験を背景に被告人のほ脱行為全般を指導する役割を果たした本件の共犯者であるから、たとえ被告人が、松岡の指導する右仮装行為に税法上問題がないものと信じたからといつて、被告人においてその責任を免れうるものでないこともいうまでもない。)。

したがつて、右の弁護人らの主張も採用できない。

(量刑の理由)

本件は、昭和五七年度及び同五八年度の法人税の申告に際し、本件同様の法人税法違反の事件(以下、前事件という。)を惹起し、右各年度分の本税及び附帯税等を早急に納付する必要に迫られた被告会社において、これを統括する被告人が、被告会社の資金繰りに窮した挙句、前事件の共犯者である東京パブコ株式会社代表取締役古田収二の紹介により被告会社の顧問会計士となつた松岡正一にその情を打ち明けて法人税ほ脱の協力方を依頼し、同人と共謀の上、上半期において約二億一三八四万円の、下半期において約五五五〇万円のそれぞれ架空の販売手数料等を計上するなどの方法により、一億三〇五七万円余りの法人税をほ脱した事案であるが、そのほ脱額は右のとおり相当高額であり、ほ脱率も約九五パーセントと高率である上、犯行の態様も、二回にわたり金融機関から多額の借入れを行つて、右販売手数料の支払を仮装するなど巧妙かつ悪質であり、さらに、動機についてみても、なるほど多額の附帯税等の納付資金に窮した末の犯行とはいえ、それは、前事件により被告会社自らが招いた結果であるから、量刑上格別有利な事情とはなり得ず、本件が前事件の当庁係属中に敢行されたものであることをも併せ考慮すれば、被告人及び被告会社の刑責には相当重いものがあるといわなければならない。

しかし、他方、被告人は本件発覚後は一応事実を認めて反省の情を示し、被告会社においては、本件ほ脱額に関し、本税を納付したほか重加算税の一部も納付済みであり、その余の附帯税についても納付の予定であること、被告人には前科がなく、これまで被告会社の事業発展のために懸命に尽力してきたものであつて、本件も個人的な利欲心から敢行したとまでは認められないことなど、被告人らのために斟酌すべき事情も存するので、これらをも考慮の上、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処し、なお、被告人に対しては、その刑の執行を猶予するのを相当と思料する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 的場純男 裁判官 三好幹夫)

別紙(一)

修正損益計算書

(オスカー物産株式会社)

自 昭和61年4月1日

至 昭和62年3月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

税額計算書

オスカー物産株式会社

〈省略〉

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